裏薄荷の初ママ日記

システムエンジニア裏薄荷が初めてママになった奮闘記

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雪の雑踏に立つ女(創作童話)

雪が降りしきるレンガの建物が並ぶ街並みです。

 

こんにちは。初めましての人もそうでない人も、裏薄荷(うらはっか)です。

 

趣味で「小説家になろう」というサイトに登録しているのですが、そちらで前に投稿した童話をこちらでも紹介しようと思います。

 

下の方にスクロールいただくと、本文掲載しています。

 

ーー 概要 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

◆タイトル
雪の雑踏に立つ女


◆「小説家になろう」掲載リンク

https://ncode.syosetu.com/n3601gc/


◆あらすじ
毎日のように雪の降る街に、たった一人、女が立っていました――。

一人の酔っぱらいをきっかけに、静かに広がる人の温かさ。
女の正体を想像しながら、どうぞお楽しみください。

 

ーー 以下、本文です ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

冬になると、

毎日のように雪の降る街がありました。

 

毎日ゝゝ、

しんしんと降り続け、

街を白く染め上げるのです。

 

だから人々は毎日ゝゝ、

自分たちが歩けるように、

雪を掻き出さねばなりませんでした。

 

 

 

――そんな、街の、雑踏で。

 

女が1人、立っておりました。

 

 

 

「たいそうな美人だなぁ。」

「ぜひ恋人にしたいね。」

 

そんな風に人々に囁かれる、美しい女でした。

行き交う人々は足をとめて、雑踏に立つ女を見つめます。

 

 

――なんて寒いのでしょう。

私もマフラーがほしいわ。

 

 

女は見つめる人々にうんざりしながら、そう思いました。

 

 

 

――そんな、冬の、ある日のこと。

 

その晩は、特別に冷え込む晩でした。

 

マフラーもつけず、

手袋もつけず、

コートも着ていないのは、

その女1人くらいなものでした。

 

 

「さっびぃなぁ。せっかく酒であったまったってぇのによぉ……。」

 

 

男が1人、歩いておりました。

 

その頬は赤く

吐く息は白く

 

寒さと酒と、

どちらのせいなのか、

よくわかりません。

おそらく、どちらもでしょう。

 

「おっ……こりゃたまげた。えっれぇ美人さんだねぇ。」

 

聞き慣れた賛辞に、

女は眉一つ動かしません。

 

「よぅよぅ、そんな格好じゃぁ、さぶくてしゃあねぇだろ。ほれ。」

 

ふわり

 

「こいつとセットで、クリスマスカラー、なんちってな。」

 

 

黒いコートの男は緑のマフラー

白い肌の女は赤いマフラー

 

それはやわらかに首元を包み込み、

彼と彼女をあたためてくれました。

 

 

「じゃあな、風邪ひくなよ。」

 

 

それだけを言い残し、

鼻歌まじりに千鳥足で、

男は雑踏を去ってゆきました。

 

 

 

残された女は

ただただ呆気にとられておりました。

 

 

――翌日。

 

「――わぁ、あのマフラーどうしたんだろ?」

「誰かがかけたんじゃねぇの?」

「帽子も似合いそうだよね。」

 

 

ぽとり

 

 

「うん、似合う似合う。」

「いや、なんか却って寒々しいような……。」

「これデザインかわいいから、美人さんに似合うねー。」

「聞いちゃいねぇ……。」

 

黒い毛糸の帽子でした。

女の耳がすっぽりと

美しい編目に覆われます。

 

 

――そしてまた、翌日。

 

 

「……いや、まあここまできたら、コートもかけないとかわいそうじゃね?ノースリーブのワンピースとか、却って寒々しく見えるんですけど。」

「夏冬仕様を楽しめる、って寸法ですな。」

「せっかく苦心して生み出した魅惑のボディが隠れちまうけど……まあいいか。」

 

 

ふぁさり

 

 

「……ってかお前、これどっから持ってきたの?」

「昨日これ見て、似合うの買うっきゃないなと思って買った。」

「まじかよっ。高そうなんですけどー。」

 

黒い毛がふわふわとした

ポンチョ型のコートでした。

胸より下までの短い丈でしたが、

充分にあたたかく、女は驚きました。

 

 

――あの人とおそろいだわ。

 

 

最初に

マフラーをくれた男も

黒いコートを着ていました。

 

もしも

彼がいなければ

彼女は今も雪の雑踏で。

 

手袋もつけず

マフラーもつけず

コートもつけず

 

ましてや毛糸の帽子なんてないままに

ただただ立ち尽くしていたことでしょう。

 

――あぁ、あの人に、お礼を言いたい。

 

 

その日は雪の街では珍しい

透き通った青がさえわたる

晴れ空が広がっておりました

 

日差しは雑踏に立つ女にも平等にふりそそぎ

 

その白い肌はもとより

黒い帽子に

赤いマフラーに

そして黒いコートに

 

さんさんとふりそそぎました

 

ドサリ

 

「――え!?」

「あー……今日、おかしいくらいあったかかったもんねぇ……。」

「ってかなんでこれだけ残ってたの?他はずいぶん前に撤去されてなかったっけ?」

「さあ?」

 

 

雑踏を行き交う人々の視線が

崩れた雪像に注がれます

 

黒い帽子とコート

そして赤いマフラーは

白い雪まみれ――

 

――雪降る街に、春がおとずれたのでした。

 

 

ーー Fin ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

……いかがでしたか? 

今後も機会があれば子ども向けの童話も書いていきたいですね。

少しでもお楽しみいただければ幸いです。

 

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